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『聖なる一族24人の娘たち』という映画を見ました。

見逃したと思ってあきらめていたら、阿佐ヶ谷のちっこい映画館でまたやってるのだという。欲望都市TOKYOはこういうときほんと便利ですね。

 

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原題は直訳すれば「草原のマリ人の天の妻たち」で、「神聖」やら「一族」やらはどっからきたのか、マリ人というトライブのことか。

 

舞台はロシア連邦内のエル・マリ共和国。みなマリ語を話す。24人(っていってるからたぶん24人)の女性にひとりずつフォーカスを当てた、悲劇あり下ネタギャグありの民話的エピソードが、ひとり数十秒で終わってしまうようなものもあれば5分以上あるものまで、オムニバス形式でぽんぽんと切り替わって飽きない。映画の最後、美しい民族衣装を身に着けた登場人物たちのアップが順に映し出されていくシーン、あばたもえくぼもほくろもしわもある彼女たちの顔を見るにつけ、自分の人生とは絶対に交わらないはずだった、遠いところの人たちの生の端に触れてしまったんだと思って、なんだかよく分からない種類の感動を覚えた。なのでエンドロールの、映画の雰囲気にびたいちそぐわない謎のダンスミュージックも許すことにする。

 

「ロシア」文化というと、どうしてもモスクワとペテルブルグのそれが中心になってしまうけど、いったん縮尺を大きくとってあくまでもロシア「連邦」として見たときには、地図上ではただ一色でのっぺり広がっているだけの土地が内包する文化的な豊饒さに喜ばしいめまいを感じざるをえない。まあもちろん、伝統文化というのは裏を返せば因習で、外から見ている分にはよくても、そこに否応なく投げ込まれた人たちは、映画のなかの幾人かのように美しいどころではない不条理を味わう場合もある。聖俗清濁いろいろ合わせて、この映画がテーマとするようなロシア連邦内の民俗的な事象を学術的に扱った本に、ロシアのカレリア地方に現代も残る呪術を現地で調査した『呪われたナターシャ』がある。

 

呪われたナターシャ―現代ロシアにおける呪術の民族誌

呪われたナターシャ―現代ロシアにおける呪術の民族誌

 

 

著者の博士論文をもとにした本ではあるけど、フィールドワークの成果を中心にしたものでそこまで難解でもなく、たいへんおもしろく読める。映画を見たならこちらもおすすめしたい。見てなくても。

 

こういった映画を見て、外国の変わった文化おもろいね、で終わってしまえば、その者はサブカルの谷に突き落とされて死んでいくだけなんだけど、谷底にある死者たちの町もそれはそれで快適なようで複雑だ。ぼくもかつて訪れたことがある。